こんにちは 浦添市の行政書士の大湾です
先日、遺言を書きたいという40代の女性の方から相談がありました。
話を聞くとこの「軍用地」は、婚姻中に取得した夫婦の「共有財産」ではなく、
相談者のお父さんが、「何かあったときのために」と相談者に生前贈与してくれたものらしい。
そしてこの軍用地は、もともとは相談者のお父さんの両親、
つまり相談者の祖父母から息子へ引き継がれた土地で、先祖代々守られてきた土地なのです。
相談者は
「わたしが先に死んだら、夫には軍用地料をもらってほしいけど、夫が亡くなったあとは、この土地を夫の親族ではなく、わたしの血の繋がった親族(甥や姪)に継いでもらいたい」
と言っています
要は、「夫側の親族に軍用地が渡るよりは、自分側の親族に引き継がせたい」
そのためには、どのような遺言をかけばいいかというご相談です。
今日は、子供のいない夫婦の財産に軍用地がある場合について考えてみたいと思います。
なぜ軍用地だと相続で問題となるのか
一般社団法人沖縄県軍用地地主会(以下、土地連)によると、
「軍用地等」とは「駐留軍用地をはじめ、自衛隊施設用地、県企業局施設用地」のこととされています。
県外で軍用地として使用されている土地のほとんどは「国有地」ですが、
沖縄の場合の私有地が30%も使われているそうです
軍用地主は自分の土地であっても自由に使うことはできませんが、
その代わり国から「防衛施設用地にかかる賃借料」として、
年1回(令和4年までは前払い・差額払いの年2回)7月下旬に地代が支払われています。
面積にする地代としては決して大きな額とは言えませんが、少しずつですが年々地代は上昇しており、
利回りのいい不動産投資として人気です。
通常、不動産には維持費や修繕費、管理費などがかり、
さらに、家賃滞納や不法占拠などの問題も時々発生しますが
軍用地の借主は「国(防衛施設局)」なので、賃料の滞納も遅延もなく
軍用地にかかる費用は固定資産税と軍用地地主会に支払う手数料だけ。
維持費もメンテナンスもほとんどかからず、黙っていても地代まで入ってくる軍用地はなんておいしい資産。
そのせいで相続争いの種になってしまうくらい、不動産の価値としては高いものなのです。
沖縄の軍用地は私有地で先祖代々からのものが多い
軍用地は利回りもよく、年々少しずつではありますが、地代も上がっています。
ですから、不動産投資目的によく売買されているのを見かけます。
しかし、投資目的ではなく、相談者のように相続や贈与で軍用地を譲り受けた場合は、
先祖崇拝の根強い沖縄では、「この土地を守りたい」という気持ちが強いですよね。
軽々しく売却したり、他人に譲ったりという気になれません。
相談者もできるだけ先祖代々からのこの土地を、よっぽどのことがない限り売ることはないと言っています。
(たぶん・・・)
子供のいない夫婦の軍用地は誰が継ぐべきか
相談者によると、そもそもこの土地は、
相談者のお父さんが、相談者に贅沢をさせるために贈与したものではなく
「もし何か困ったことがあったら、ご先祖様からの頂いたこの土地を使いなさい」
と言って、譲り受けたもの。
もし何事もなく相談者夫婦の人生が終わり、まだこの軍用地が無事手元に残っていたときは、
この土地を相談者の子孫に受け継いでもらいたいと思っています。
しかし、相談者夫婦には子供がいません・・・
もし相談者が遺言を書かずに夫よりさきに亡くなれば、
軍用地は夫へ、
そして、夫が亡くなれば夫の相続人へ引き継がれてしまう可能性があります。
そこで、相談者は、夫に軍用地が相続されるのはいいけれど
夫が亡くなったあとは、相談者の甥か姪に継がせるための遺言を書けないか?
相談者は、夫にも軍用地料を受け取って生活してもらいたいけれど、
夫が亡くなったあとは、軍用地は相談者の親族に継いでほしいと思っています。
遺言がなければ、遺産分割協議をしなければならない
そもそも、相談者が遺言を残さず夫より先に死んだ場合、
相談者の夫はまず、相談者の両親、(もし両親が亡くなっていれば兄弟姉妹)と、遺産分割協議をしなければなりません。
相談者の両親はもう80歳を超えていてすでに高齢。
その両親に遺産分割協議をさせるのも忍びないと言ってるし、
そもそも高齢なので、認知症になっているかもしれない。
そうすれば、遺産分割協議を行うためには、「後見人」を付けなければいけません。
例え争いがなくても、遺産分割協議を行うこと自体が大変な可能性があります
また、相談者の両親が亡くなっていれば、
相談者の夫は、相談者の第3順位の相続人である「相談者の兄妹姉妹」と遺産分割協議を行います。
しかし、相談者の姉は米国在住のため、遺産分割協議をするにしても、海外とのやりとりはとても大変。
ですから、相談者が遺言を書き、相続人らの手間を減らすのは、もはやミッションです。
子がいない夫婦の相続財産に「軍用地」が含まれているときの遺言
①夫を信頼して、「夫が亡くなったあとは、私の甥に軍用地を遺贈してほしい」という遺言を書く
相談者は、相談者が先に亡くなり、夫も亡くなった後は、この軍用地を甥か姪に承継させたいと思っています。
しかし、相談者が遺言で、夫の次の承継者まで指定できるのかが問題です。
実は、それはできません。
なせなら・・・
「所有権絶対の原則」があるから。
いくら先祖代々からの土地とはいえ、夫が所有権を取得したら、
夫がこれを売却しようが誰かに遺贈しようが寄付しようが、自由なのです。
ですから、相続においては、財産の承継者を何代も先まで決めても効力が生じません。
夫の良心を信じて、相談者が遺言の付言事項に、
「夫が亡き後は、私の甥(姪)に遺贈し、先祖代々から受け継いだ土地を継承させてほしい」という希望を書く。
ただし、付言事項に強制力がないので、希望通りにならない可能性もあるでしょう。
ただし、遺言ではなく民事信託であれば連続承継が可能なので、
夫の次の継承者に甥と決め、軍用地を血縁で決めて引き継がせるということはできます。
②夫婦二人で、相談者の甥を受遺者とする遺言を書く
夫婦共同で1つの遺言を書くことはできません。
しかし、別々に遺言を書くことはできます
夫と別々に、予備的遺言として双方の死後の財産の帰属について決めておくという方法もあります。
相談者は「私が先に亡くなったときは、軍用地は夫へ相続させる。夫が先になくなった場合は、甥(姪)に遺贈する」
夫は「私がこの軍用地を相続後、私が亡くなったあとは、妻の甥(姪)に遺贈する」
二人で別々ながら、共通の受遺者を決めて遺言を書けば良いのですが・・・
だた、相談者の夫が遺言作成に協力してくれるかはわかりません。
③相談者が遺言で軍用地を甥に遺贈し、夫が生きている間の軍用地料は夫が取得するという負担付き相続の遺言を書く
相談者が遺言で「この軍用地を甥(姪)に贈与する」とします。
しかし、「この軍用地から発生する軍用地料については、夫が生きている間は夫が取得する」と条件をつけるのはどうでしょう。
そうすれば、夫が生きている間はこの軍用地料の恩恵にあずかれる上、
夫が亡くなった後の軍用地の名義も、すでに甥(姪)なので心配ありません。
しかし、名義は甥っ子ですから、軍用地の固定資産税の支払い義務は甥っ子にあります。
固定資産税の納付書は甥っ子に届くのに、
軍用地料は夫がもらっているという状況になります。
甥っこは、夫が生きている間は、軍用地料の恩恵にあがない上、
固定資産税だけは甥っ子が支払っている状況となるかもしれません。
そして、もし夫が100歳まで生きたら?
甥っ子の方が先に亡くなってしまう可能性もありますね。
ですから、そのような状況を想定し、遺言には
「夫が軍用地料をもらっている間は、夫が固定資産税を支払う」などの条項も入れたほうが良いでしょう。
④いっそのこと土地を手放して現金化
このように、軍用地を持っている子なし夫婦の場合、
誰に承継させるかというのは頭の痛い問題です。
「ご先祖様からのいただきものだから絶対に売らない!」というのもわかりますが、
子なし夫婦は、軍用地の行く末よりも老後の生活の方が切実です。
だって、子供がいない夫婦の場合、将来面倒を見てくれる子や孫もいないのですから・・・
ご先祖様はむしろ、相談者夫婦の老後を心配してるかもしれません。
軍用地を売却し現金化して、二人仲良く老人施設に入る資金にするという選択でも、
もう、ご先祖様は怒らないかもしれません(笑)
あとがき
相談者の夫も相談者の意見に賛同し、
「ぼくが死んだら、君の親族の誰かが軍用地を引き継ぐのが筋だと思う」と言っているそうです。
今回のケースの場合、夫の理解もあるので
ケース①の「夫を信頼して、「夫が亡くなったあとは、私の甥(姪)に軍用地を遺贈してほしい」という内容の遺言を書く」か
ケース②の「夫婦二人で、別々に、相談者の甥を受遺者とする遺言を書く」
という方向で進めようということになりました。
さらに
軍用地の相続問題でお悩みの方は、軍用地に詳しい行政書士にぜひご相談ください。
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